娘が帰省した時、「とても心温まるから、ママ、読んでみたら」と言われた本が、「そして、バトンは渡された」であった。その本が私に廻ってきた。昨年の秋に映画化され、お正月に観てきたが、映画館を出るときは幸せな気持ちで一杯だった。
2019年本屋大賞を受賞した瀬尾まいこ著作(文春文庫)
映画を見る前に、原作を読み直した。この本の出だしと最後が、森宮さんの語りで書かれて、その間は、主人公の優子の語りである。映画では、どのように表現するか、興味が沸いてきた。
あらすじ
主人公森宮優子は高校2年生、五人の父と母がいる。その全員を大好きだ。生まれた時は水戸優子だった。その後、田中優子となり、泉ヶ原優子を経て、現在は森宮を名乗っている。継父継母がころころ変わるが、血の繋がっていない人ばかり。
「バトン」のようにして様々な両親の元を渡り歩いた優子だが、親との関係に悩むこともグレることもなく、どこでも幸せだった。
多感な高校二年生、それも血のつながっていない親の都合で、人生を3回も振り回された優子は、それぞれの場所で幸せだったとは、とうてい私には思えない。これが世の中の常識だと思って読み進むと覆される!
何故なんだろう・・・
それがこの小説の書き出しがに表れている。
「困った。全然不幸ではないのだ。少しでも厄介なことや困難を抱えていればいいのだけど、適当なものは見当たらない」(本文:主人公優子)
優子が受けた親の愛情
親の子供に対するの愛情は、無償の愛であり、捨て身になって守り抜くこと。子供が甘えたいときにはすべてを受け入れることで、親の愛を示すことができると思う。
親がいつも笑顔でいたら、子供は思いやりのある優しい子に育つ。これは、個性豊かな誰も憎めない、それでいて、子のためには愛情を一杯捧げる。この4人の親、水戸さん、梨花さん、泉ヶ原さん、森宮さんに共通して言える親の愛情です。
血の繋がっていない親からの愛情を、各親からバトンとして注がれ続けた優子が「困った。全然不幸ではないのだ」とと発した理由がわかる。
優子の様に育ったことは、作者が言う、「愛情を注がれていることも、愛情を注ぐ場所があることも幸福である。」に繋がる。又、孤独ではなく、「誰もが誰かと繋がっていること」が優子の「全然不幸ではないのだ。」を言いえている。
家族とは、その愛とは
優子の継母である梨花は自由奔放に生き、愛する優子のためなら強引な結婚や離婚を平気でやってのける。又、病気の自分に、子供に迷惑をかけたくないと行方をくらます。理解に苦しむキャラクター。
まさに、
梨花の愛は、「見えないところで見守る」、本当はそばにいて一緒に子の成長を見届けたいことが本心であるが、それをしない愛情です。即ち、「見守る愛情」です。
親として子供には、自分の人生は自由に歩んで欲しいと願うのが当然だと思う。
梨花さんがどんな思いで優子から去っていったか、その真実を知ったとき・・・
本書の感動シーンに遭遇します。
肉親であれ、血の繋がってない親の愛が、こんな形で見せられると感動以外に言葉が無い。
家族とは、親子とは
主人公「森宮優子」は高校2年生、父親は3人目「森宮壮介」で、料理上手で、料理で愛情表現をするタイプ。年齢も37歳、優子と20歳の年の差。父親として娘を育て,結婚までは、優子のことを一番に考える義務があると考えている。
優子が森宮さんと暮らし始めて3年たった頃、森宮さんとの「新しい家族像」を物語ってる情景があり、それが優子自身の「家族とは・親子とは」への回答でもあった。
森宮さんと暮らし始めて、三年。その年月が長いのか短いのかよくわからない。親子という関係が築けたのかは不明だし、この先何年暮らそうとも森宮さんをお父さんとは呼べそうにもない。ただ、私の家はここしかない。・・・この暮らしをこの家をどうしたって守りたい。(本文)
二十歳過ぎの優子が、血のつながっていない父親の森宮さんをお父さんとは呼ばないが、この家を
決死の覚悟で守りぬきたいと思い、優子の父親への愛情、家族への愛情には、言葉が無い。
映画と小説(原作)
映画と原作は共に楽しめ、どちらを先にするかは、問わない。映画と原作と異なるシーンはあるが、映画館を出るとき、良かったね。心温まるいい映画だったねと言うだけのものがある。
映画では、優子のビアノ演奏、特に早瀬君の天才的なピアノ演奏には、演奏会に来てる気がするほど素晴らしかった。
そして、バトンは渡された
原作のエピローグは、森宮さんの語りで終わる。
優子の結婚式当日、森宮さんは、最後のバトンを優子のフィアンセ・早瀬君に渡すため、バージンロードを優子と共に歩み始めた・・・
スタッフの合図に、目の前の大きな扉が開かれた。光が差し込む道の向こうに、早瀬君が立つのが見える。本当に幸せなのは、誰かと共に喜びを紡いでいる時じゃない。自分の知らない大きな未来へとバトンを渡す時だ。あの日決めた覚悟が、ここへ連れてきてくれた。「さあ、行こう」一歩足を踏み出すと、そこはもう光が満ちあふれていた。(本文)
最後に
原作の「そして、バトンは渡された」は2019年の本屋大賞を受賞、コロナ前であった。コロナ禍での撮影の間、世の中は一変した。
価値観が変わり、格差問題も露呈した。又、孤独死やヤングケアラーが問題になり、「親子の愛」「家族の愛」とはを、この作品をつうじて考えさせられた。
先入観を持っていた片親、継父継母に育てられた子供への見方も変わり、愛情、誰もが誰かと繋がってることの重要性を改めて感じました。
冒頭の書き出し、娘の「とても心温まるから、ママ、この本読んでみたら」から妻へそして私へとバトンが渡り、コロナ禍で萎えたこころに温かい愛のプレゼントを頂きました。
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