人新世の「資本論」・・難解であったが、一筋の光が見えて来た!

コロナ禍で前向きに良かったことで、ある言葉が頭の中から飛び出してきた。”それは暇ができたこと。「仕事とは何か」とか「人生とは何か」とか、こういった青臭い若い人が考えるようなことを、大人が考えなければならなくなったこと。”(養老孟司)

そんなとき「今こそ青臭いこと」で出会った本「人新世の資本論」(斎藤幸平著:集英社新書)である。

50年前の私の学生時代は、ケインズの近代経済学をかじったが、マルクスの資本論は、難解で読んだことすらなかった。養老先生の「今こそ蒼臭いことを考えよう」の精神で、若い頃チャレンジできなかった「マルクスの資本論」かな・・と読み始めた。

難解であったが、何度も読み返すと実に面白く、混沌とした今の時代に一筋の光明を見いだせる内容だった。

概要:

人類の経済活動が地球を破壊する「人新世(ひとしんせい」=環境危機の時代。気候変動を放置すれば、この社会は野蛮状態に陥るだろう。それを阻止するためには、資本主義の際限なき利潤追求を止めなければならないが、資本主義を捨てた文明に繁栄などありうるのか。いやこの、危機の解決策はある。ヒントは、著者が発掘した晩期マルクスの思想の中に眠っていた”

気候変動をストップさせる解決策は「脱成長コミュニズム」である。

資本主義を脱して、エネルギーや生産手段など生活に不可欠な〈コモン〉を自分たちで共同管理する「脱成長コミュニズム」に進まなければならない。”(本文)

 

概要を読んでみて、気候変動の原因が、現在の資本主義である。だからこそ、改善するために国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)を各国で推進し、米国では「グリーン・ニューディール」を公約に掲げて、「脱炭素社会」へ向け、各国政府や大企業も大きく舵を切り始めた。

私は、「これらを持続すれば、気候変動の危機は改善できるんじゃない・・」と思った。これが甘いと冒頭から殴られてしまった。

 

人類の経済活動が地球を破壊する「人新世(ひとしんせい)」=環境危機の時代

我々は、環境危機の時代に突入したとうすうす感じていることがある。人間が制御できないような、様々な「自然現象」をTVや新聞報道から知っている。

その際たる例が気候変動です。
気候変動の影響で、スーパー台風、ハリケーン、山火事などの異常気象が発生しています。

このまま放置しておくと、水不足や食糧危機などの問題が起き、生物の多様性が失われて、多くの場所が人間の住める地球環境ではなくなってしまう。

又、日本などの先進国で暮らす人々は、大量生産・大型消費の環境下で、豊かで便利な暮らしを送ってきた。しかし、その裏には、他者犠牲(著者はグローバルサウスと呼ぶ後進国の上に成り立っていたことは知られていない。

 

気候変動の危機は資本主義では、達成できない

「SDGs(持続可能な開発目標)」でも「グリーン・ニューディール(温暖化防止と経済格差の是正を目的)」でも、加速度的に進む環境破壊と温暖化は止められない。

先進国で温暖化対策が達成されたかに見えても、前にも述べたが、途上国に「つけ」を押し付けただけのグローバルサウスの問題が残る。

例えば、電気自動車に必要なリチウムもコバルトも、途上国での貴重な水の浪費や環境汚染、過酷な労働を犠牲にしている。

従って、著者は気候変動の危機は、資本主義を温存したままでは止められないと結論ずけた。

新たな道への兆候(資本主義による経済成長以外の道)

今までは、気候変動という「人新世」の危機の乗り越え方は、経済成長して技術を発展させ、その技術で対処するという考え方が主流でした。

「経済成長が続く限り二酸化炭素の削減は間に合わない。」と豊富なデータ分析・論文から断言する。

そこで、資本主義による経済成長以外の道があると考えられる。欧州では、グレタ・トゥーンベリ(2003年生まれの環境活動家)たちが「新しいシステム」を求めていることに目を付けた。

著者は、上記のような資本主義ではない別の経済システムを打ち出すことにより賛同し行動してくれる若者達に期待している。現に若者たちの草の根活動が始まっている。

気候変動の危機を救う解決策

気候変動の危機を救うのは、資本主義から脱出した「脱成長コミュニズム」である。

資本主義は絶えず膨張していくシステムなので、脱成長と資本主義の両立は不可能なのです。資本主義を超えるような社会に移行することでしか、脱成長社会は実現できない。では、脱成長コミュニズムは、どんな概念でしょうか?

脱成長コミュニズムとは(晩年のマルクスの研究ノートにヒント)

”教育、医療、家、水道、電気などのいろんなものを、市場の論理、投機・投資の論理から引き上げていく。みんなでみんなのものとして共有財産にしていく。<コモン>を広げていった社会がコモン型の社会、つまりコミュニズムということですね。そういう意味で、脱成長コミュニズムを提唱しています。”(本文)

 

以上の「脱成長コミュニズム」の概念を、今までの「マルクスの資本論」では、見いだせず、晩年のマルクスを新しく解釈することで発見した。ここがこの本の肝である。

即ち、マルクス自身も単にテクノロジーを発展させていけばいいと考えているわけではないこと、「持続可能性」「社会的平等」の原理を、西洋社会においても高いレベルで導入しようと言っていた。

マルクスは脱成長という言葉は使っていないし、気候変動の問題を論じていたわけでもない。

これこそが、今日風にいうと「脱成長型のコミュニズムに移行しよう」と読めるんじゃないかと著者は語る。

新しい豊かさとは

”世界的なトレンドとして、若い世代は、資本主義よりも社会主義のほうが好ましいと考えています。たとえば、アメリカのZ世代の半数以上が社会主義のほうに肯定的な見方を抱いているという調査結果もあります。”(本文)

確かに現状の経済社会では、安定した仕事はない。学生ローンはたくさんある。年金はもらえそうにない。気候変動でますますしんどくなっていく。このままのシステムを続けることで、いいことがあるとは思えない。そう感じる若い人たちが大勢いたとしても、本来おかしくないことです。

「人新世」という環境危機の時代に、資本主義の限界がきているんだということ、そこで脱成長のコモン型社会に移行していくことが、むしろ豊かな社会に繋がっていくんだという風に感じてもらえればと思います。”(本文)

まとめ

最後に,脱成長コミュニズムの具体例事例として、企業や国家を恐れない「フィアレス・シティ(恐れぬ自治体)」として水の権利を「コモン」として奪い返したスペインのバルセロナ市を紹介しているを示している。

今我々が生活している資本主義からの移行過程が見えてこないのは、私だけでしょうか・・・

コロナ禍の中、気候変動による温暖化対策が必須となり、グローバルに先進諸国が行動を始めた。このような混迷した社会にたいして「持続可能な未来」への道筋を示してくれた「人新世の資本論」は、非常に興味がそそられ、読み返す価値があった。

”我々の未来は、本書を読んだあなたが、3.5%のひとりとして決断をするかどうかにかかっている”(本文)

ここまで読んでいただき、有難うございます。

 

備忘録:「マルクスの資本論」

”今まで一般には、マルクスはこんなふうに理解されてきました。資本主義の発展とともに、資本家は労働者を搾取し格差が拡大する。資本家は競争に駆り立てられて、生産力をどんどん発展させていく。ますます多くの商品を生産するようになる。しかし、低賃金で搾取されている労働者たちはそれらの商品を買うことができず、最終的には過剰生産による恐慌が発生する。ついには労働者たちが団結し、社会主義革命が起こし、労働者は解放される。 だから今は労働者は搾取されて貧しくても、資本家の独占を打破すればみんなが資本家のような生活ができるようになると考えられていた。そのためにテクノロジーをどんどん発展させていけばいいんだと。”

 

 

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